
優勝の瞬間 Eric Espada/World Baseball Classic Championship: United States v Japan:ゲッティイメージズ提供
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝は、前回王者アメリカ合衆国と今大会全勝で勝ち進んだ日本となった。試合前に大谷 翔平投手(エンゼルス=花巻東出身)は「今日1日は憧れるのをやめて勝つことだけ考えていきましょう」とチームの士気を高める。今大会は大谷がチームを鼓舞してきたが、その集大成とも言えた。
先制したのは王者アメリカ。2回にトレイ・ターナーが先発の今永 昇太投手(DeNA=北筑出身)から一発を放ち先制。日本はその裏にすぐさま準決勝で、サヨナラ打を放った村上 宗隆内野手(ヤクルト=九州学院出身)のホームランで追いつく。
その後も前年メジャーリーグで13勝を挙げたメリル・ケリーを攻め立てる。岡本 和真内野手(巨人=智辯学園出身)のヒットから源田 壮亮内野手(西武=大分商出身)が続き、中村 悠平捕手(ヤクルト=福井商出身)が粘りに粘り出塁して満塁のチャンスにし、マウンドから引きずり下ろす。2番手・変速左腕のアーロン・ループからラーズ・ヌートバー外野手(カーズナルス)が一ゴロを放ち、その間に勝ち越しに成功。この回は、今大会で各国から得点を積み重ねた、下位打線からのチャンスメークも見られた。
2番手の戸郷 翔征投手(巨人=聖心ウルスラ出身)は、メジャーリーガーが揃う打線に対し、ランナーを出しながらも決め球のフォークを生かしながら抑える。捕手の中村のリードも四球や暴投を恐れず、フォークを生かしたリードも素晴らしかった。最終的に2イニングを無失点に抑え、第2先発としてこの上ない結果を残した。それに応えるように、巨人でチームメートの岡本が今大会2本目となる、ソロホームランで追加点を挙げる。
3番手は高い奪三振率を誇る最年少の髙橋 宏斗投手(中日=中京大中京出身)。5回の先頭打者であるムーキー・ベッツに不運な内野安打を許すも、2者連続三振に抑える。その後ヒットを許すもカイル・シュワーバーをセンターフライに抑える。
4番手は国際大会に強い伊藤 大海投手(日本ハム=駒大苫小牧出身)。アメリカ打線に臆することなく淡々と投げた。強心臓の伊藤は、三者凡退に抑えアメリカに流れを与えないピッチングを見せた。
5番手は今大会フル回転の活躍を見せた大勢投手(巨人=西脇工出身)。しかし、本来のピッチングからは程遠い内容に。その中で、フォークを上手く使いながらピンチの場面を併殺打で締めた。このプレーでは、山田 哲人内野手(ヤクルト=履正社出身)と源田の二遊間だからこそ、併殺打をスムーズに取れたと言ってもいいだろう。
8回はダルビッシュ 有投手(パドレス=東北高出身)がマウンドにあがる。しかし、シュワーバーに一発浴びて1点差に。今大会本調子から程遠い懸念が当たってしまう。ただ、後続を抑えてなんとかリードして8回を投げ切った。
そして、9回は今大会文句なしの活躍を見せた大谷がマウンドに上がる。四球でランナーを出すものの、ベッツを併殺打に打ち取り、2死にする。最後はチームメートであるマイク・トラウトを三振に打ち取り世界一奪還した。
まさに死闘だった。準決勝と同様に先制を許す展開だったが、日本らしい大技と小技を上手く組み合わせた野球で、ひっくり返して世界一に輝いた。監督である栗山英樹氏は、不振にあえいだ村上を信じ続けてスタメンで起用。それが最後の活躍に結びついたのだろう。さらに、準々決勝では打順を変更。4番に吉田 正尚外野手(レッドソックス=敦賀気比出身)を置き、5番村上、6番岡本にして、スムーズに得点できるようにした。
また準決勝は、決勝のことは考えず、投手起用においてスマートさをなくして絶対に勝つための起用をし、佐々木 朗希投手(ロッテ=大船渡高出身)から山本 由伸投手(オリックス=都城高出身)へのリレーを見せた。
その投手陣をリードに定評があり、打撃面ではイヤらしさもある中村が正捕手として引っ張った。ここぞの場面では大谷がチームを鼓舞しつつ、最後の最後に代走の切り札・周東 佑京外野手(ソフトバンク=東農大二出身)を起用し、泥臭く逆転勝利。
決勝では、準決勝とは打って変わり、若手投手陣の小刻みな継投でアメリカ打線を抑えて、日本ハムを日本一に導いた2016年を彷彿させる采配で世界一に導いた。
大会MVPに輝いた世界最高の野球選手・大谷翔平

大谷翔平(エンゼルス)
今大会MVPに輝いたのは文句なしで大谷だった。ベテラン野手の不在が懸念材料だった中で、28歳という若さでチームをまとめ上げた。これは実績や実力はもちろんのこと、カリスマ性や可愛がられる雰囲気、データには表れない部分の貢献度を含め、「大谷 翔平」という選手だからできた結果だ。
緊張感が溢れる1次ラウンドの初戦では、二刀流としてチームを牽引し、チームを勢いづけた。その結果、1次ラウンドでは文句なしのMVPを獲得。期待値通りの活躍を見せた。
これまで、第1回・第2回大会ではイチローが、チームを牽引していたが、基本的に大会中はスロースターターだった。しかし、大谷はこの大会の序盤にピークを合わせ、二刀流として文句なしの活躍を見せた。大会前の実戦は2試合だったが、合流前は貧打で心配された打線。大谷自身はすぐに結果を出せば、雰囲気が変わると思っていたかのように、すぐさま結果を残した。
この大谷の活躍により、4番に座っていた村上はプレッシャーに感じる部分もあったが、最終的にはこのプレッシャーを乗り越え、大会終盤に生き返って決勝でホームランを放った。大谷の発言や、一つ一つのプレーによりチームの士気は変わっていっただろう。この大谷がいることにより、世界各国に与えるプレッシャーは段違いに変わった。
最後は「投手・大谷 翔平」として有終の美を飾ったが、WBCという世界一を決める大会で、2016年のプロ野球を1人で支配したように、世界最高のプロ野球選手である大谷が大会を支配し、主人公だったと言っても過言ではない大会だったのは間違いない。
このWBCの優勝により、野球というスポーツがさらに人気向上し、国技として世界に誇る日本をずっと見続けていきたい。
(文=ゴジキ)