目次

[1]公立校が向き合う厳しい現実
[2]地域が支えてきた高校野球の文化を続けていけるか

地域が支えてきた高校野球の文化を続けていけるか



成章の選手たち

 2006年の特待生騒動以降、いわゆる特待生に関するガイドラインが高野連から発表された。このことによって、より戦力格差は広がったと実感している。ことに、本当に全国制覇の可能性のあるトップレベルの学校は、全国からその世代の野球に関しては最も能力のある選手たちがほとんど出身地域に関係なく、自分たちの意志で(あるいは、勧誘されて)有力校を選択して、そこに入学していく形となっている。

 つまり、前述のように、高い能力の選手たちが、より強いところを求めて地域に拘らず進路を選択しやすくなってきたとも言えようか。それが、こうした全国的な傾向として、二極分化が進んでいっている背景となっているのだ。

 もちろん、そのことを否定するものではない。自己の能力を伸ばすためにその可能性を伸ばしてくれるところを目指していくという姿勢は悪いことではないからだ。それは、野球だけではなく、バレーボールやバスケットボール、サッカー、卓球や陸上にしても、あるいは受験にしても、そういう意図で進学先を決めていくということは否定されるものではない。現実に、競技によっては、全国大会の上位校はほぼ固定化している傾向もあるくらいだ。

 こうした傾向は、現在の高校野球での中学生の進学状況を見ていくと、今後はさらに色濃くなっていくと思われる。

 加えて、地方では過疎化も進んでいる。それに全国的な少子化現象ということも影響して、ある程度伝統のある公立校でも、入学してくる生徒総数が減少しているということは否めない。2008年春に小川 泰弘投手(ヤクルト)を擁して21世紀枠で出場を果たすなど、過去2度の甲子園出場実績のある愛知県の成章は創立120年を超える伝統校だ。

 それでも渥美半島のほぼ真ん中の田原市に学校があり、「生徒数の減少で1クラス減ということも起きている」という。河合邦宗監督は、「そんな中で、毎年10人近い新入生が何とか集まってきてはいますが、現実は少ない分母で近隣の学校との獲得合戦ですよ。それでも、いい選手なのに成績が届かないので入学できないとか、地区の最有望選手は好条件で(名古屋)市内の私学や静岡県の有力校などに持って行かれるというケースもしばしばありますよ」と言う。

 それでも、「地元では伝統校でもあるし、多くのOBの方や応援してくれる人たちもいます。だから、限られた中でも、どこに出しても恥ずかしくない質の高いチームとして作り上げていかなくてはなりません」と言う。

 ある意味では、高校野球というのは、そういう形で発展してきたとも言えるのだ。また、そんな地元の生徒たちが頑張っていく姿を見て、地域の人たちが支えて応援してきた高校野球文化というものがあった。

 高校野球の技術が上がり、選手個々の質が上がっていき、かつてに比べて野球そのものは確実に向上していっているであろう。しかし、そうした現実の一方で、一部突出した学校が、プロ野球予備軍、プロ野球選手養成所のような形で全国から有望中学生を獲得していくということは、今後もさらに進んでいくであろうと思われる。

 時代も変わっていく中で、100年以上の長い歴史を有する高校野球のあり方も少しずつ形を変えているのも確かだ。何が正しくて、何が好ましくないのかということは、一概に結論の出せる問題ではない。ただ、どこかで「私学vs公立」という構図が浮き彫りにされていき、今後はますます「私学>公立」という勢力構図で推移していくことは否めないであろう。

(文=手束 仁