北陸の選手たち

 第147回北信越地区大会は福井県勢の決勝となり、タイブレークの末、北陸敦賀気比を破り、34年ぶりのセンバツ出場をほぼ確実にした。

 大会自体は正直にいって、やや小粒な印象が否めない。このところの北信越は、12年にはソフトバンク・栗原 陵矢外野手(春江工出身)、13年には元DeNA・飯塚 悟史投手(日本文理出身)がいて、14〜15年の敦賀気比平沼 翔太投手(現西武)、山﨑 颯一郎投手(現オリックス)を擁し、17〜18年の星稜(石川)には奥川 恭伸投手(現ヤクルト)と山瀬 慎之助捕手(現巨人)、19年には1学年下の内山 壮真捕手(現ヤクルト)と、毎年のように大物球児が活躍していたのだから。

 むろん、選手たちは懸命なプレーを見せたし、大熱戦もあった。それでも、観戦者は勝手なものだから、大物不在の物足りなさを感じてしまうのだ。初戦で遊学館(石川)との延長12回を完封した氷見(富山)のエース・青野 拓海投手(2年)が上位に進めば、また違ったかもしれないが、翌日、先発を回避した松商学園(長野)との準々決勝で姿を消した。

 そういう大会で目立ったのは、福井県勢の地力である。優勝した北陸は福井3位で、1位の敦賀気比が準優勝、2位の福井商も4強と、出場3チームがすべてベスト4に進んだのだ。開催県新潟の4校は1勝4敗で、福井の3校は9勝2敗だから、なおさらその強さが際立つ。

 もともと北信越の5県中、甲子園通算勝ち星は福井がトップ。2012年からのここ10年に限っても(20年を除く)、春夏通算26勝20敗と、同17勝14敗の石川を大きくリードしている(他3県は10勝にも届かない)。かつて他県から、福井のあるチームに招かれた監督に聞いた話を思い出した。他県では、準々決勝からが本当の勝負。でも福井では、1回戦から気が抜けないんです——。

 この秋、福井県大会には27校が出場したが、そのうち、ほぼ半分の13校に甲子園経験がある(21世紀枠の丹生を含む)。参加校数は少なくても、強豪が初戦から足をすくわれることは十分ありそうだ。むろん、13校すべてが出場時と同等の力を維持しているとは限らないが。「それと、福井のレベルが上がったのは、(敦賀)気比さんの存在が大きいと思いますよ」というのは、20年から母校・福井商を率いる川村 忠義監督だ。

 「昭和の時代、1978年のセンバツで準優勝しているように、福井の甲子園での勝ち星は大半が福井商でした。ですが平成に入ると、力をつけた敦賀気比が甲子園上位の常連になり、15年には北陸勢としてセンバツに初優勝。われわれ公立勢は、その(敦賀)気比に勝たないと甲子園はないわけで、その切磋琢磨が全体のレベルを上げているんじゃないですか」

 川村監督が春江工を率いて13年のセンバツに出場したときは、前年秋の福井大会決勝で敦賀気比に敗れながら、北信越の決勝で借りを返しての初出場だった。あるいは今年の夏、福井商は2回戦で敦賀気比に0対7と敗れ、さらに秋の決勝でも2対6で完敗。まさに「敦賀気比に勝たないと甲子園はない」ことを、痛いほど知っているわけだ。学校別の甲子園勝ち星では、福井商が33勝で県勢トップだが、94年の夏が初出場の敦賀気比も31勝と猛追している。

 その気比は今回の北信越でも、「全然ダメ」と東 哲平監督を激怒させながら、中越(新潟)との準々決勝では4点差をはね返す地力を見せ、松商学園との準決勝は高見澤 郁魅内野手(2年)ら、甲子園経験者が力を発揮。3年連続のセンバツ出場に当確ランプをともしたのはさすがだ。  

 そして…。優勝した北陸を率いるのは、その敦賀気比でコーチを務めた林 孝臣監督である。今季限りで引退した西武・内海 哲也投手(敦賀気比出身)と同期。主将を務めた1999年の秋には北信越を制し、翌春のセンバツに出場するはずだった。だが不祥事が発覚し、無念の出場辞退。立正大を経て民間企業で働いているとき、2学年上の東監督に「どうや、一緒に母校でやらんか」と声をかけられてコーチとなった。

 そこから10年間コーチを務め、かねて誘いのあった北陸の監督となるのは、19年夏の甲子園後である。それにしても、同県のライバルに快く送り出すとは、東監督もなかなかの太っ腹だ。もともと東監督自身、01年からの一時期、北陸の監督を務めていたことがある。これも、切磋琢磨の構図か。

 林監督によると、「母校との対戦はいつも、むちゃくちゃ楽しみ」だそうだ。ただし北陸の監督になってすぐの19年秋を皮切りに、この夏の決勝も4対8と敗れて4連敗。「甲子園まであと一歩。私自身、折れそう」だったが、北信越決勝でようやく母校に恩返ししたわけだ。林監督はいう。

「今の2年生は、私が監督になって初めて入学してきた年代。"親代わりだと思ってくれ"と接してきましたが、ここまできてくれたのが一番の親孝行ですね」

 いずれにしても。敦賀気比、それに21世紀枠で丹生が出場した22年に続き、来年のセンバツも福井勢のアベック出場が実現しそうだ。

(文=楊 順行)