目次

[1]野球を知り、ブルペンで応用する
[2]本番で重要になる「間の取り方」

本番で重要になる「間の取り方」

大久保秀昭・現慶應大野球部監督

「サイン一つで勝ちにも負けにもつながることを、キャッチャーには常に意識させています」
と大久保監督は言う。間違いなくゲームのカギを握る存在であり、それが楽しみでもあり怖さでもある。キャッチャーとはそんなポジションだ。

 もし自分の思い通りに相手を抑えられれば――完全にゲームをコントロールしている快感を得られる。例えば、冒頭に記したアトランタ五輪のアメリカ戦のように。

 だが、もし逆に自分の思い通りにいかなければ――適宜修正をしていかなければならない。その際、重要になるのが「間の取り方」だ。大久保監督も「自分が勝てていた理由は間の取り方」と言うように、1試合に3回まで許されているタイムをどこで使うか、が勝敗の分かれ道になることがある。

 これから始まる夏の甲子園予選。高校3年生にとっては最後の舞台になる。当然、これまでに経験したことのない重圧が押し寄せる。緊張感が張りつめる初戦。練習通りに投げていればストライクが取れるエースが、初回から乱調。結果、フォアボールを連発し失点。それが焦りにつながり、自分たちの良さが出せぬまま敗戦――というケースを見る。本人たちにとっては悔やんでも悔やみきれぬ負けだろう。こうならないためにはどうしたらいいのか。

「3回のタイムをどこで使うのか。これはタイミングを計るのが難しく、監督でも迷うところです。でも、流れが止まらないと判断したら初回からでもタイムを取るべきでしょう。そしてまずはピッチャーを落ち着かせる。当たり障りのないことですが、ゆっくり深呼吸させたり。あと、ピッチャー自身に話をさせる。それでも調子が戻ってこなければ交代しかないと思いますが」

 ピッチャーを見て、仲間を見て、試合展開を感じて、「これ以上傷口を広げたらまずい」と判断したらタイムを取る。その際も、一目散にマウンドに駆け寄った方がいいのか、ゆっくり向かった方がいいのか、最もピッチャーが落ち着く方法を採用する。

「ピッチャーと普段の練習試合から肌感覚を刷り合わせておくことが、こういう場面でいきてきます。本番に近づけば近づくほど、練習試合からタイムを取る意識づけを強めていくといいかもしれません。すると、効果的な声掛けが分かってくる。すると次の瞬間、ピッチャーが我に返ったり、直後にダブルプレーでピンチを脱出したり、といったケースはこれまで何度も経験してきました」

 重要なのは、キャッチャーがチームの中で最も落ち着いていなければいけないということだ。そして、最後の夏でも緊張しないで迎えるためには、日頃の実戦練習から最悪のケースを想定して準備しておくこと。ひょっとしたら、初回にタイムを1回取ったことが勝利に結びつくかもしれない。

「キャッチャーは今でこそ注目されるポジションになっていますが、やるべき仕事は多いし、我慢強さや忍耐力が求められる割には地味(笑)。ですが、勝った時に訪れる達成感はものすごく大きいものがあります。爆発する喜びというより、身体の芯からジーンとシビれてくる喜びです」

 やみつきになってしまうキャッチャー独特の喜びと楽しみ。そして、この醍醐味を知れば知るほど成長速度は増していく。今、キャッチャーとして悩んでいる選手、苦しんでいる選手がいたら、ぜひ一度落ち着いて「野球を知る」という原点に立ち返って見てほしい。急がば回れ、という言葉もある。きっと、そこから活路が開かれるはずだ。

(文・写真:伊藤 亮

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